2023年を振り返りまして その1
- 2023/12/30 08:10
今年も残すところあと2日となりました。
恒例の振り返りなどをしたいと思います。
2023年はスタートからトップスピードで。
3月に『荒野は群青に染まりて 相剋編』(集英社単行本)と4月に『遺跡発掘師は笑わない 災払鬼の爪』(角川文庫)という感じで、書き下ろし二ヶ月連続刊行だったので、作業が重なりまくり、近年にない追い込み方をしました。
「荒野は~」は少しずつ書きためていたので、執筆時期がかぶったわけではないのですが、やはり発売前になると作業は重なるのでこうなる。
書き下ろしは集中して半年強に1本くらいのペースが精神的にもベストなんですが、シリーズを抱えているとなかなか新作が書けない悩ましさもあり、スケジュールをうまくやりくりできるようになるのが課題です。
その後は休みを十分とりながら、ゆっくりペースでじっくりと取り組めました。
『荒野は~』はようやく上下巻が揃いまして。
相剋編は「高度経済成長期の企業小説」の一面もあり、しかも製造業を描くということでかつてない挑戦になりました。もちろん主軸は群青と赤城の義兄弟を中心とする人間模様ですが、その時代特有の空気感や世情、社会背景というものは、人間の生き方に大きく影響するので、フィクションの土台を作るためにも物書きとしての底力をつけなければ、と思わされました。
知見も必要だけど、知識に頼りすぎると本末転倒するので、すごくエネルギーが要ることではありますが、目先の事にとらわれすぎることなく、挑戦していきたく。その挑戦をさせてくれる方々にも感謝しつつ。
『遺跡発掘師』シリーズは、大分編と青森編でした。
大分編は国東半島の修正鬼会をテーマに据えた江戸時代に消えた村のお話。
青森編は「偽書」をテーマに、めちゃめちゃ仲悪い親子である無量と藤枝教授が謎に挑んでいくお話。
大分編は10年に一度という大雪にあたった取材が印象深く。でもおかげで10年に一度の景色が見られて、感動しました。まあ、ちょっと車がつるつる滑って山をあがれなかったりもしましたが。(冬タイヤなのに)
担当さんが国東半島出身で、地元ならではの情報を聞けて、作品に生かせました。あと大分弁も。イケボのイケオジが話す大分弁にきゅんとしました。方言の威力すごい。
終戦直後の別府の話も興味深く。ちょうど「荒野は~」と同時進行だったこともあり、引揚港周辺のカオスとかも解像度があがりました。
青森のほうは、やはり恐山でのイタコ体験が、ちょっと人生観に影響するくらい強烈でした。イタコという存在は、神や霊というものを媒体として、人生や生活のいろんな場面で寄り添ってくれるひとという印象。無形文化財にして残してほしい。
実は当初藤枝は出る予定ではなかったんですが、偽書がテーマなので文献屋なら藤枝だな、と思い、ここで親子向き合わせるか、となりました。
藤枝の印象が変わったというご感想が多かったです。さすが親子、似てますよね。
ゲストキャラのいろはには、ちょっとモデルというかイメージをお借りした方がいまして。大湯の環状列石にいたガイドさん。すてきな方でした。
あと縄文ダンスグループも青森の縄文PRビデオで拝見したPVから着想を得ました。すごくおしゃれでかっこよかった。
偽書に関しては、私自身フィクションを扱う身として、書きながら自戒もこめました。小説では、史実ではないことを「虚構」の名のもとにもっともらしく書いてしまうのですが(そもそも出土する遺物は皆フィクション)あくまでフィクションですので、読み手のみなさんは鵜呑みにしてはいけませんよ。書き方には気をつけてますが、念のため。→