Diary

2021年もありがとうございました。その2

  • 2021/12/31 15:29

そして13年間続けてきたノベル大賞の選考委員を2021年度にて退任いたしました。
そろそろ執筆に専念したいと言う理由でしたが、もうひとつには、選考委員の新陳代謝も必要であろうというもので、自ら交代をお願いいたしました。少し前から退任の意向を伝えておりまして、後任の方に関しまして私のほうからもどんな方がよいかなど少し意見を述べさせていただき、無事に決まったところで、はれて今年度で退任という形になりました。
選考会はひとつの作品についてプロとプロがその善し悪しについて意見を述べ議論する場です。時に歯に衣着せない意見の応酬になることもあります。
元来話すのが苦手でそのために小説家になったような私は、選考会のような場所は心底苦手で、弁舌豊かな皆さんに囲まれて当初は地獄のようでしたが、場数をこなすにつれて(前半は年二回でした)ようやく場慣れして、肩の力をぬいて、本音のぶつかりあいや駆け引きを愉しめるまでになりました。
新しい才能を選ぶことには大きな責任を伴います。そのひとの人生を変えてしまうかもしれないからです。選ぶことにも責任が、選ばないことにも責任が伴います。それぞれがプロとしての経験と矜持をもって述べる評には重さがあり、私はその場でたくさんの学びを得ました。
他の誰もが気づかなくて、或るひとだけが気づいた「その作家の良さ」が、劇的に選考の場を動かすこともある。
いま振り返って本当に貴重な場に身を置くことができたと思います。編集部の皆さんには心から感謝いたします。
私とともに13年選考委員の任に付いた三浦しをん先生(今では直木賞の選考委員もされてます)には「あとはよろしく!」という感じでおまかせし、この先も続投してくださいますが、彼女がいてくれれば私は安心なので、その熱い魂を若手に継承していってほしいです。
吉田先生の誰もがうなる劇作理論、今野先生の目配りの効いた切れ味鋭く細やかな批評眼、……どれもこれも目から鱗が落ちるばかりでした。
ありがとうございました。
後任は似鳥鶏先生です。来年度は特別審査員でなんとカズレーザーさんも参加されます。楽しみですね!おふたりともよろしくお願いします。
作家を目指す皆さん、どしどしご応募ください。

そして私が担当した選考をきっかけに、作家デビューを果たした皆さん。
これから先もその活躍を見守って、応援しています。
大きく花開いてください。

というわけで今年もコロナに振り回された一年でしたね。すっかりマスクが顔の一部となりつつありますが、来年は唇に風を受けて大きく息が吸えるようになることを祈ります。

最後にこの一年も桑原作品を読んでくださった皆さん。
本当にありがとうございました。
楽しんでいただけましたでしょうか。
感想をくださった皆さんもありがとうございます。なかなかお返事はできませんが、ありがたく心に刻ませてもらっています。嬉しいです。
がむしゃらだった日々を経て、いまようやくじっくりと腰を落ち着けて、創作と向き合えているように感じます。ようやくここまで来れたなと。
がむしゃらに自分を追い込む日々があったから、いまがあるのだと思います。じっくりと挑戦できる環境がありがたいです。
執筆をする意味は私にとっては「生業だから」と言えるくらいには年月を重ねました。
ただ小説を書く意味は結局のところ、人間を描くということに尽きると思います。当時よりも土台は広がり、人間を見つめる作業も、ただただ感情を掘削するだけではなく、そのひとが生きる時代や社会そういうものに筆を広げて、その中で生きる人間の「生き様」を描きたい。
これも挑戦です。
その挑戦を見届けてもらい、来年も皆さんに楽しんでいただけますように。
ありがとうございました。

それではみなさま、
良いお年をお迎えくださいませ。 

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