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新春あほノベル

		
		

 新春あほノベル(プチ)

                    作・桑原水菜

お題「鮫が尾城のある新井市で『越後あらい景虎物語ー冬の陣ー』というお祭りやるそうなんだけど、その中で景虎の劇もやるらしいよ」

「一緒に劇に出ないかって?」
 びっくりしたのは劇団『鳩の翼』の葛川蛍である。
「なんだよ、それ。おまえ、そういうこと会場に連れてきてから言うかよ!」
 正月早々、劇団員の高梨絵里に初詣と称して呼び出されて、連れてこられたところは、いきなりオーディション会場だった。
「新潟の新井ってとこでやるお祭りなの。しかも劇やるの。出演者オーディションやるって聞いて。どーしてもやりたかったんだもん、景虎さんの奥さん役。ケイも上杉景虎やりたいでしょ?」
「募集条件=カップルか新婚さんって書いてあんじゃん」
「いま彼氏いないんだもん。だからケイ連れてきたんでしょー!」
「だいたい上杉景虎って誰」
「やるのか、ケイ」
 いやに低い声に驚いて、ケイは振り返った。
 連城響生が立っている。
「れ、連城……?(なんでここにいるんだろう?) あ、あけましておめで」
「俺の戯曲は拒んだくせに、また他人の舞台に立とうっていうのか」
(あ、ヤバイ)
 とケイは思った。連城の顔は青ざめ、殺気を漲らせている。こんなところでいつものようにナイフを振り回されては、正月早々警察沙汰だと思ったケイは、慌てて逃げ出そうとしたが、途端に連城に飛びつかれた。
「どうなんだ、ケイ! 俺の戯曲よりもいいのか。俺より景虎を選ぶのか!」
「ちょちょ、ちょっとちょっと!」
「駄目よ、ケイ君。この男についてったら!」
 と息を切らしながら会場に駆け込んできたのは中宮寺桜だ。
「コイツ、また締め切り前なのに家抜け出しやがったのよ! もう信じられない! コイツのせいであたし、正月ないんだから!」
 連城の顔が青いのは、どうやら締め切り前のせいらしい。
「あんた、こんなところで油売ってる暇あったら一行でも書きなさいよ! んな余計なことばっかしてるから、毎回著者校正のゲラ真っ赤にして大ひんしゅく買うのよ!(水:す、すみません) ……あら?」
 と連城の首根っこをつまんでいた桜が、入り口にある立て看板を舐めるように見た。
「越後あらい景虎物語? ケイくん、これに出演するの?」
「まだ決めたわけじゃ」
「この舞台ね、どうやら物凄い大物演出家が演出するらしいわよ」
 物凄い大物演出家だと!?
 連城もケイも聞いた途端、顔色が変わった。
「まさかハイバラ!」
 だしぬけにドアが開いた。
 途端に会場がどよめいた。連城もケイもアッと息を呑んだ。
 現れたのは……!
「今度舞台を演出することになった、仰木高耶だ」
 現れたのは高耶さんである。
「こっちは舞台監督の直江信綱。てめぇら変な演技しやがったら、灰皿どころか《力》飛んでくっから、覚悟して演れよ」
 ケイは茫然と立ち尽くした。
(これがオレの「師匠」──……)
 運命の舞台の幕が上がる。
                        おはり

*す、すみません。景虎役募集ってあったので、つい出来心…。(でも初共演?)
 ちなみに景虎役はやるひといなくて地元の高校生の皆さんがやったそうな。

  • 初出 『FAX版上杉藩御用達』2000年2月
  • 2005.11.1 WEB再録

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