※唐突ですが、カナデ日記（２００８夏）を始めたいと思います。

嘉手納奏
「拝啓　大おばさま。
　残暑お見舞い申し上げます。お元気ですか。

　暑い毎日が続いてますが、こちらも皆、元気に過ごしています。
　日本では、夏休みに入ると巡回ラジオ体操が始まります。日本の夏の風物詩です。うちの近所では子供たちや高齢者の皆さんが、毎朝六時頃、神社に集まってきて、ラジオから流れてくる音楽にあわせ、体操します。
　勿論アイザックさんも毎日参加しています。出席するとカードにハンコを捺してもらえるのですが、皆勤賞の人は記念品がもらえると聞いて、俄然張り切って毎朝早起きしてます。眠いからオレはいいよ～って思うんだけど、アイザックさんに無理矢理叩き起こされて神社に引きずられていきます。あくびしながらラジオ体操です。
　アイザックさんのラジオ体操は完璧です。第一も第二もそらでできます。こないだは前に出てやる係にもなりました。ちゃんと『ラジオ体操の歌』だって歌えます。勿論、日本語です。大真面目にやるんでダイナミックです。ふつーあそこまで跳ばないよね。超騎士ってラジオ体操にも手ぇ抜かないんだな…。
　アイザックさんは東ドイツ時代を思い出すといって喜んでます。（あんなかんじだったんですか？？）
　ゆくゆくは幻のラジオ体操第三をマスターして、ラジオ体操マイスターになるんだそうです。
　とりあえず皆勤賞目指して頑張れ。アイザックさん。
　けどオレはあと一時間寝たいな～…」

※いうまでもなく本編とは関係ありません。　

奏
「昨日は内海と三人で市民プールに行ってきました。
　アイザックさんは流れるプールが珍しかったようです。『この間食べた流しそうめんみたいダネ！』と喜んで流されてました。
　そのうち色々応用できることに気づいたらしく、『ちょっと鍛えてくる』と言って逆行して泳いで、監視員のお兄さんにこっぴどく怒られてました。これには内海もポカーンです。←オレは慣れてるけど…。
　アイザックさんはさりげにイイ体してるので、プールサイドでは子供の付き添いのお母さん方がアツイ視線を向けてました。逆ナンから守ってあげるのが大変でした。
　ウォータースライダーをやりすぎて、しまいには水着に穴が空いてました。市民プールをこんなに全力で楽しめるアイザックさんが少しうらやましいです。
　帰りにかき氷を食べました。
　オレは練乳派で内海はレモン派だけど、アイザックさんはいちご派でちょっと可愛かったです。
（ちなみにケヴァンは宇治金時派だそうです）
　久しぶりに日焼けしてなんか肩がひりひりするなぁ。

　今度は海に行く約束もしたので、今から楽しみです」

奏
「今日は、ひとみ叔母さんがボランティアをしてる近所の児童館で子供夏祭りがあって、手伝いにかり出されました。オレとアイザックさんは流しそうめんの装置作りで、沖山の和尚さんとこの裏庭に竹取りに行きました。
かぐや姫の話を聞いたばっかりだったアイザックさんは、おっかなびっくり竹を伐ってました。
意外に日曜大工が得意なアイザックさんはそうめんの流れる速さにこだわって、竹のレーンの高さや角度を念入りに調整してました。まるでそうめんマイスターです。アイザックさんは日本にいると色んなマイスターになっちゃうなあ…。
おかげで完璧な流しそうめんができて子供たちに喜ばれましたが、たまに混じってる色つきそうめんだけは譲れないので、またアイザックさんと争ってしまいました。
ちょっとおとなげなかったかな、と反省しきりです。来年こそは子供たちに譲ってあげようと思います」

奏
「今日オリンピックのフェンシング競技をみたアイザックさんが『僕もできるヨ！』と張り切って、ふとん叩きでフェンシングの型を披露してくれたのはいいのですが、見事に花瓶を割ってしまい、ひとみ叔母さんに怒られてました。

　アイザックさんの夏の苦手は、セミです。
　ゴ●ブリ相手には闘争本能を発揮できるアイザックさんだけど、セミはどうにも苦手らしく、網戸に張り付いてたりすると、とっても怖がります。
　なんでも小さい頃、地面に落ちて動けなくなっていたセミを見つけて『死んじゃったのかな…』と指でつついて確かめたところ、いきなりビチビチ暴れ始めてアイザックさんめがけて襲いかかってきたので以来セミがコワイのだそうです（…不思議な理由…）。
　この時期になると、うちの小さな庭にはセミがよくひっくりかえってて、毎朝ひとみ叔母さんがセミ救出隊（＝裏返しになってたのをひっくり返してあげる）になるのですが、たまに窓を開けた隙に家の中に入ってきたりすると、アイザックさんはもう大騒ぎです。
　しかも家の中で鳴かれた日には、アイザックさんのほうが泣きそうです。
　セミの抜け殻だけでも怖がるので、近所の神社からもってきて、いたずらで机の上に並べてあげたりしてあげます。とうぜん怒られるけど、涙目のアイザックさんがかわいいです。
　そんなアイザックさんですが、七日間しか地上で生きられないセミの命には何か儚いものを感じるらしく『彼らは命の限り鳴いてるんだね…』と感傷的になったりもします。そんなアイザックさんがオレは大好きです。
あ、今日ケヴァンから電話がありました。明日うちに遊びに来るそうです。たのしみだな」

奏
「　昨日からケヴァンが遊びに来ています。
　ちょうどお盆で、仏壇にお花や果物をいっぱいお供えしてたのをみて、ケヴァンは何かの祭壇だと思ったらしく『なんの神を祀っているのか』と聞かれたので『お父さんとお母さんのお位牌だよ』と教えてあげたら『そうか』と少し切ないカオになり、手を合わせてくれました。
　アイザックさんからはお線香の上げ方とか教わってました。
　まだ日本に不慣れなケヴァンへ、あれこれ教えてあげられるのが嬉しいらしく、アイザックさんは先生顔でなんだか誇らしげです。（いつもは教えられる側だから）
　ゆうべは内海と山瀬も呼んで、近くの河原で花火をしました。
　日本の家庭用花火の種類の多さに、アイザックさんもケヴァンもびっくりです。
　ネズミ花火に追っかけられたり、落下傘を追いかけ回したり、すっかり童心にかえりました。
　アイザックさんのお気に入りはヘビ花火です。むにょむにょ黒いのが出てくるのがたまらないそうです。
　ケヴァンのお気に入りは線香花火です。こよりの先の赤い玉が、小さな太陽みたいだと喜んでました。
　最後は五人でしみじみと線香花火にひたりました。
　そのあとは内海もうちに泊まり込んで男四人で夜遅くまでカードゲームで遊びました。なので寝不足気味です。
　今日は奥多摩にバーベキューしにいきます」　　

奏
「今日ケヴァンが帰りました。
あれから毎日ずーっと遊び倒してて、へとへとすぎて夜はバタンキューだったので日記も書けない有様でした。でも、とても充実してました。楽しかったです。
　バーベキューでは、アイザックさんとケヴァンが絶妙のパートナーぶりで凄かったです。炭のおこし方も肉の焼き方も、野菜の投入タイミングも〆の焼きそばも、全部ケヴァンが仕切ってしまい、オレと内海はほとんど焼き肉のタレ係で終わりました。
　鉄板といえばアイザックさんです。ケヴァンの前で念願のもんじゃ焼きを披露して得意がってました。もんじゃマイスターの面目躍如です。タオルを首にまいたアイザックさんが眩しかったです。
　それから川遊びして、日帰り温泉にも行きました。恥ずかしがって嫌がるアイザックさんを無理矢理みんなで脱がしにかかって、ついに温泉に入れちゃいました。ちっこくなってるアイザックさんをひきずって露天風呂に入れてやったら半分泣いちゃって可愛かったです。でも途中から気に入ったみたいで、結局一番最後まで浸かってたのはアイザックさんでした。
　ちゃんと最後に牛乳呑むんだよ、と教えてあげて、みんなで並んでいちご牛乳を呑みました。
　そうそう。同じ外国人なのにケヴァンは脱ぎッぷりは見事です。全然ﾌﾂｰに温泉につかってました。どこで知ったのか、タオルを頭にのせるとこまで完璧でした。というか、ケロ●ン風呂桶も持ってると聞いて驚きました。オレたちより銭湯通みたいです。
　えー…と、それからそれから……。長くなるのでまた明日以降書きます」

奏
「ケヴァンが泊まりに来ている間は、客間に一緒に布団を敷いて寝てもいいよ、とひとみ叔母さんから許可をもらったので、アイザックさんと三人で川の字になって寝ました。
　オレは人のお腹を枕にしてゴロゴロ転がるのが好きなので、ケヴァンのお腹を枕にしてゴロゴロ転がりました。アイザックさんのお腹は筋肉でかちかちだけど、ケヴァンのはほどよくて、気持ちよかったです。
　翌朝は、ラジオ体操の後で、沖山の和尚さんとこの朝の座禅会にも参加しました。アイザックさんとオレは何度も杓でビシビシ叩かれたけど、ケヴァンの精神統一は見事で、沖山の和尚さんも感心してました。さすがアステキッシュ・マイスターです。
　お昼ご飯はケヴァンがメキシコ料理を振る舞ってくれました。そうそう、ケヴァンはお酒を飲みます。中身は大人でも外見は未成年なんだから、駄目だよ、と止めても聞きません。アイザックさんとふたりで利き酒とかやっちゃって、オレだけ子供扱いでちょっと悔しかったです。
　それから都心に服を買いにいったり、カラオケに行ったりもしました。カラオケは、アイザックさんの十八番は『氷雨』です。日本語で覚えた歌、第一号なのです。声だけならジ●ロみたいです。めちゃめちゃ歌い上げます。ケヴァンは洋楽。古い歌しか知らないというので、ためしに『Imagine』を歌ってくれたのですが、やけにぐっと来てしまいました。
　ふたりとも妙に歌が巧いので、聞いてみると、『騎士の館』にはカラオケがあるそうです。ちなみにジュードさんの十八番は『マイウェイ』だとか。らしくて笑えました。アランさんはQUEENとか熱唱するそうです。目に浮かぶようです。
　今度みんなでカラオケ大会をやってみたいです」

奏
「夏休みも残り少なくなってきて、遊びすぎたツケを取り返すべく毎日宿題に追われてます。でも急に涼しくなったので勉強には最適です。
そんななか、山瀬から商店街の夏祭りに誘われました。
浴衣を着てくると言うので、オレはアイザックさんと一緒にお揃いの甚平を着て出かけていったんだけど、山瀬はビミョーな顔をしてました。…アイザックさんもついて来るとは思わなかったみたいです…。
金魚すくいコーナーに名人が来ていたのをみて発奮したアイザックさんは『僕は金魚レスキューにナル！』と言い出して（←「金魚掬い」を「金魚救い」だと思い込んだ模様です）ポイを片手に格闘してました。
アイザックさんが金魚に夢中になってる間、ふたりで夜店巡りをしました。山瀬は毎日部活なので忙しいらしく、ますますたくましくなっていました。浴衣姿は可愛かったけど、射的とか百発百中で男前すぎて惚れそうです。
あんず飴のおまけじゃんけんも全勝で、三つももらえてしまいました。←仲良く三人で食べました。
山瀬ならいい超騎士になれそうだと思いました」

奏
「楽しかった夏休みも明日でおしまいです。
　淋しいけれど、すっかり涼しくなっちゃったので気分はもう秋です。しかもここ数日大雨続きで夜中に雷が凄いので、大騒ぎです。
寝られないので開き直って雷鑑賞会をしたりしてました。
　今は最後の夜をゴロゴロ満喫中です。
　宿題はなんとか終わりました。意外にも理数系に強かったアイザックさんが家庭教師してくれるおかげで、苦手な数学もばっちりです。英語もばっちりです。こんな時アイザックさんが頼もしく見えます。
　そうそう。この間アランさんが遊びに来て、無理矢理、夜の海までドライブに連れて行かれました。海に面した国道沿いのコンビニで溜まっている暴走族（えー…と、地元の文化だそうです）の皆さんの横にしゃがみこんで何ら違和感なくアイスをかっくらっていたアランさんがとても眩しかったです。
　アイザックさんは戦々恐々してたけど、意外に侠気溢れるアランさんにオレはちょっと惚れそうでした。１日早いけどアランさんお誕生日おめでとうです。
　そんなカンジで今年の夏も終わっていきます。
　夏の終わりの寂しさも、悪くないね、とアイザックさんは笑っています。そんなアイザックさんと過ごせた夏休みはオレにとって宝物です。
　また来年もこんなふうに過ごせるといいなぁ……。

　それでは大おばさま。
　ミュンヘンはもうこっちよりずっと涼しいかもしれませんが、
　どうぞお体に気をつけて。
　またお手紙します。

　奏　　　」