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舞台『炎の蜃気楼 昭和編 散華行ブルース』を振り返って(3)

 気持ちのままに書いていたら、ずいぶん長くなってしまいました。
 ここからはスタッフの皆さんへの謝辞です。

【演出】伊勢直弘さん
 圧巻、の一言です。あれだけスケールの大きい戦いをどうやって舞台にあげるのか。景虎の換生をどう描くのか。私には想像もつかなかったのですが、それを映像などに頼るのではなく、直球真っ正面から演劇的手法で描きあげてくださったのが、すごく嬉しかった。
 影や音楽の扱い方ひとつにも理由をこめて、丁寧にかつ大胆に描きあげてくださった。どこかシェイクスピアとかギリシャ悲劇にも通じる骨太さがあって、それが私が個人的に好きな方向性であったこともあり、観劇している時間はこのうえなく幸せでした。それと同時に、昭和の古き良き映画の香りもあり、郷愁も感じました。昭和三十年代というまだ土埃の多い時代の空気が、舞台全体に満ちていた。
 ここには書き切れないほどの感想が沢山あるのだけど、なかなか伝えきれないのがもどかしい。伊勢さんの演出で舞台にしてもらえて、ミラージュという作品は幸せ者です。光栄でした。ありがとうございました。

【脚本】西永貴文さん
 小説原作は情報量がとにかく多く、舞台化が難しいのですが、ストーリーラインの肝要なところを拾い上げて大胆に縫い上げていく作業は、苦労の連続だったかと。心の底からお疲れ様でした。散華行では、美奈子に換生した景虎と美奈子の心が交錯するシーンが、すこぶる演劇的で美しく、印象的でした。
 脚本のお仕事は本番前にはほぼ終わり、あとは私同様観る側になるのですが、西永さんから頂く感想や印象がたびたびピンポイントで私とかぶり、同じところを同じように観ていたのが嬉しく。脚本を書くという作業は時に原作者とシンクロを招くものなのかと驚いたりもしました。
 この物語をとても大切に扱ってくれて、ありがとうございます。
 西永さんのお人柄が……優しさと誠実さが滲み出る脚本でした。

【演出助手】矢本翼子さん
 とても有能な演出助手でミラージュの生き字引でもある矢本さん。
 もう……ちょっと言葉が出てこないくらい……。ありがとうございました。
 稽古場でお会いすることが多かったんですが、すごいところでキャリアを積んだ方なのにそういうのをおくびにも出さず、どこまでも親しみやすく、指示を出しながら独特の流れを作りだしているのがまるでコンダクターみたいだなあ、と思って見学していました。
 キャラへの理解も深く、時々、私を代弁してくれるところもあったりして、そんな矢本さんがいてくれるから安心して任せられたんだろうなと思います。舞台や作品への愛情が深く、キャストへの愛も深く。伊勢さんが稽古場の父なら、矢本さんは稽古場の母でした。

【殺陣】清水大輔さん
 ミラステの見せ場である《調伏》シーンから、体の絡みを必要とする細かなやりとりまで。
 見応えたっぷり迫力たっぷりに作り上げてくださいました。
 原作の描写をもとにより見栄えよく膨らませたアクションの数々は何時間でも観ていたかったほど。
 背景もよく調べてくださっているので安心して観ていられる。
 私は昔から時代劇の殺陣やカンフーなどのアクションシーンが大好きで大好きで、それを表現したくてアクション小説を書き続けてきました。
 それをこうして舞台で表現してもらえて純粋に夢がかなったようで嬉しかった。とても嬉しかった!と同時に魅力的なアクションシーンとはどういうものなのかを教えてもらった気がしました。
 目で見てかっこいい殺陣を言葉で読んでもかっこいいものにできるようになりたい。
 この物語に素晴らしいアクションをつけてくれてありがとうございました!

【衣装&メイクチームのみなさん】
 公演期間中、楽屋に行くとどちらのチームもずーっと働いておられる。終演後も、衣装のお手入れやウィッグのお手入れをずーっとしておられる。とっても忙しそう。
 キャストの「かたち」への細部に至るまでのこだわり。限られた時間での集中力、日々の勉強、いつも自然体で明るいメイクチームのみんなだけど、プロフェッショナル特有の立ち居振る舞いがいつもかっこよかった。朽木のリアルリーゼントにも感動したけど、二次元で描かれた挿絵から、三次元で成り立つよう忠実に再現するには、想像以上に試行錯誤と技術がいるはず。それらを余すところなく発揮してくださった。沢山の魔法ありがとう。
 衣装で印象深かったのは、佐久間盛政。挿絵がないので自由に作れるところでもあったんですが「仏映画に出てくるアランドロン風の細身スーツ」という案を提示してくださって、そのスタイリッシュな感じに「これにメガネつけたらヤバイやつ!」と思い、お願いしました。
 時代考証だけでなく、キャラの心情にも寄り添う衣装のチョイス、奥が深い。
 早替えの着脱や激しいアクションのための動きやすい素材。舞台ならではの工夫や細やかな気配りが行き届いているなあ、と感心して見てました。
 ありがとうございました。

【音響&照明&映像チームのみなさん】
 あのど迫力の《調伏》。私、書いている時にはずっと《調伏》の音というのは脳内で聞いたことがなくて、かろうじて「怨霊が消える時の〝鳥が羽ばたくような音〟」だけだったんですが、初めて舞台でみたとき「ああ、これが《調伏》の音か!」とすごい納得しました。
 《力》と《力》がぶつかる重低音、楽器の生演奏と一緒でDVDでは決して感じ取れない、肌で感じる音が臨場感たっぷりで、客席ごと戦いの場に放り込まれた気がした。
 そして光。ミラージュの舞台は基本的に「闇の中の光」が印象的で、それが世界観にぴったりとはまった。闇の中の美しい光からクライマックスの大光量のめつぶしまで、どのシーンもドラマティックだった。絶望に寄り添う美しい光が共にあったことが、救いだった。
 そして映像。以前、観に来てくれた演劇ライターさんが(おーちさんのことですけど)、ミラステはプロジェクションマッピングをただの書き割りとしてではなく、完全に「道具」として使いこなしているのがすごい、と仰ってました。確かに回を重ねるごとにどんどん進化していって、今ではアクションシーンまでも天然カラー(?)に。
 開扉法のシーンは夢のように美しかった。圧巻でした。
 そしてすごく心に残っているのが、OPやカーテンコールを彩った映像。
 今回のラストシーン直前の、昭和三十年代からの現代(といっても、高耶が高校生だった時代)への時の流れを映し出すシーン。「現代」だけカラーになっていくんですよね。
 ぐっときました。(そういう細かいところまでは円盤では再現しきれないかもですけど)
 映し出される画像のチョイスも、絶妙でした。
 書いていたら、むしょうに観たくなってきた。ちょっと観てきます。

【美術&小道具の皆さん】
 今までの装置を踏襲しつつ、レガーロだった空間は、主に阿蘇の家になりました。柳楽さんのアトリエに仏像の写真があったのが印象深く。本当にシンプルな舞台装置なのだけど、万能でした。ミニマムでありながら、あれだけ多彩な場面をこなせるのは、すばらしい。
 舞台のすばらしいところは、そこが、観客の想像力によってどこにでもなれるところ。
 それをすごく効率的に叶える形だったな、といつも感動してました。
 小道具も多彩で、ミラージュらしいなと思ったのが、武器の数と木端神。もちろん銃なんかは時代考証を鑑みつつ、型式を選んでいるそうです。
 毎回小道具さんお手製のものが楽しみでした。今回一番のお気に入りだったのは、柳楽さんが作った健磐龍命像。加瀬さんには特に似てないところがポイント。きっと当時の美奈子はなにをみても「賢三さんに似てる」と思ってたに違いない。
 石太郎……は大きくなっちゃったので、茶筅丸として登場の赤ちゃん人形。お顔はくっきりではなくうっすらある感じが絶妙。でも立派な登場人物ですよね。
 毘沙門刀は鍔がないんだけど、一応、手が滑って刃に触れないよう、うっすらとでっぱりがあるそうです。そうだったのか!と感心しました。
 毒入りの飴の箱とか、直江たちのかばんとか(直江ちゃんと持ってくれてる)ひとつひとつが思い出深いです。

【トライフル制作チームの皆さん】
 本当に働き者なトライフルのみなさん。縁の下の力持ち、稽古場の顔、劇場での顔……なにからなにまで頭が下がります。
 小川さんは夜啼鳥がトライフルでの最初のお仕事だったそうですが、この四年でめざましい成長をとげて、今では貫禄すら感じるほどです。それだけ濃密なお仕事を果たしてこられたんだなと。その小川さんと散華行までご一緒できたのは、感慨深いことでした。
 そしてフォトブックも担当の大庭さん。ステキな一冊になりましたよね。本当にお疲れ様でした。できあがった最後の写真を嬉しそうに私に見せてくれたのがとても印象深く。達成感を感じているだろう、どこか誇らしげな笑顔がステキでした。
 西村さんも観に来てくれたのが嬉しかった!
 歴代制作チームの皆さん、本当にお疲れ様でした。ありがとうございました。

 思いつくままに述べた結果、びっくりするほど長くなってしまいました。
 舞台監督さんはじめ現場の皆さんや当日運営の皆さん、カメラマンの宮坂さんやパンフレットライターの横川さん、他にもたくさんいるスタッフの皆さん、
 私の目には見えないところで奮闘されていた皆さん。
 関わってくださった全ての皆さんに、心から御礼申し上げます。

 そして最後に。

 トライフルエンターテインメントの辻圭介プロデューサー。
 「炎の蜃気楼」という作品を舞台にしてくださって、本当にありがとうございました。
 思えば、遠いところまで走ってきましたね。夜啼鳥が始まった時、こんな素晴らしい未来が待っているなんて思いもしませんでした。毎回毎回が奇跡のようでした。
 昨今舞台化される作品といえば、人気最高潮で同時進行のメデイアミックスが何本もあるような若い作品がほとんどだと思います。二十何年も続いてきて、環結という名の晩年を迎える作品を舞台化することには沢山の試練があったことでしょう。
 決断をしなければならない人間は、時に孤独です。
 重圧に負けそうになることもあったかもしれません。
 たくさんの選択と決断を積み重ねて、ここまで私たちを連れてきてくれて、
 本当にありがとう。
 書き手も読者も、作品が人生とともにあったような、……そんな作品を手がけ、成功させたことが、これから長く舞台を作り続けていくだろう辻さんやトライフルにとって、なにものにも代えがたい、得がたい経験になってくれていたらいいな、と思います。
 舞台は消えていくもの。
 でも心には一生残ります。
 私にとっても、この舞台は、たぶん人生の最後に思い浮かべる大切なもののひとつになったことでしょう。
 これからも、誰かのためのそういう舞台を、作り続けてください。

 抱えきれないほどの、万雷の拍手のような薔薇の花束とともに。
 ありがとうございました。

2019.1.30    桑原水菜
  
  

   
   

  • 2019.2.4 更新

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