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舞台『炎の蜃気楼 昭和編 散華行ブルース』を振り返って(2)

 以下は、ざっくばらんになりますが、キャスト&スタッフの皆さんに謝辞など。
 感想のようなものになりますが、
 長くなりますので、この先はお時間のある方だけどうぞ。

■富田翔さん(上杉景虎/加瀬賢三)
 想いの力、一念の力というものが、いかに強く現実を動かすか。困難にも打ち勝つか。千秋楽の後、「もう景虎を演じなくていいんだと思った」と何かで書いてらしたけど、それは環結後「もう明日から(ミラージュを)書かないでいいんだ」と思った私の感慨と全く一緒で、その言葉から、どれほどこの作品を背負ってくれていたか、痛いほど伝わりました。
 私の無茶な注文を真摯に受け止めて恐れず挑戦してくれたことが、心から嬉しかった。富田翔が富田翔であることを超えてきたあの瞬間は、きっと観客にも伝わったでしょう。心に残ったシーンは書き出せば、きりがなくなりそうですので、あえて言葉にはせず胸にしまいこみます。
 富田翔という俳優に景虎を演じてもらえたこと、心から誇りに思います。
 全身全霊で景虎を生きてくれてありがとう。
 長い旅の終わりに、得がたいカタルシスをありがとう。
 
■平牧仁さん(直江信綱/笠原尚紀)
 思えば散華行の直江について、仁さんに「ここはこうしてほしい」というようなことを一度も言ったことはありませんでした。そんなものなくとも最初からてらうことなく裸で、剥き出しだった。あつしさんが観に来た夜、居酒屋の席で、あつしさんのアドバイスに真剣に耳を傾けていた姿が印象的でした。
 なんのためらいもなく狂える表現者は強い。本番の板の上で、手綱を手放すように感情に身を投げ出してしまうことは、キャリアを積んだ役者にはかえってできないかもしれない。赤剥けの魂を思わせる直江を舞台に載せてくれたことが本当に嬉しかった。胸に迫る《調伏》も忘れない。いつも明るい仁さん、でもその奥底には直江と同じか、直江以上に暗くて熱い塊を抱えている。自分自身のポテンシャルを信じて表現者の道を歩き続けてください。

■佃井皆美さん(柿崎晴家/小杉マリー)
 今回の晴家は大変な役どころでした。美奈子の真実に青ざめ、直江に怒り、景虎に真実を告げ、朽木への思いを断ち切り……。物凄い濃度とエネルギー。いつもひまわりみたいに明るいけど、ほんとは繊細で感受性の鋭い皆美さんにはきつかったはず。言葉にできないという苦しみの中で、立ち向かう晴家の悲壮を全身で表現してくれていた。
 前回の稽古後の飲みの席で、私が朽木がレガーロに来た理由を語った時、ぽろぽろと涙をこぼした皆美さん。ああ、ここまで役が体に入ってしまっているのか、すごいな、と思ったものでした。なので今回ちょっと心配してましたが、杞憂でしたね。皆美さんは気丈でした。最後まで晴家の思いに寄り添ってくれてありがとう。
 今回をみて「あ、この方はこれから大人の芝居をする女優さんになる」と感じました。脱皮の瞬間のようなものに立ち会えて嬉しい。勿論アクションも。外道パンチが好きでした。

■五十嵐麻朝さん(安田長秀/宮路良)
 粋でいなせな五十嵐長秀。今回は「あの長秀でさえ余裕がもてない」切迫感に満ちていて切なかったけど、夜叉衆への掛け値なしの想いをその演技から強く感じていました。死の間際のぎりぎりの笑みも目に焼き付いてます。直江への「立て!」も。どうあればどこまでも長秀らしくあれるか、細かい仕草や表情まで突き詰めておられた。
(そういえば私、楽屋にまい泉のカツサンドを差し入れてたんですけど、麻朝さんはエビサンドが気に入ったらしく、エビサンドが届くたび「えびー! えびきたよー!」と楽屋中に報告してる姿がとってもチャーミングでした)
 ミラージュを引退舞台に、と決めた麻朝さん。
 代表作といってくれて心からありがとう。お疲れ様でした。

■小野川晶さん(北里美奈子)
 散華行の美奈子は準主役と呼べる大変な役どころ。全幅の信頼を置いていましたが、期待以上に素晴らしかった。「これが美奈子の記憶」という台詞で、換生した景虎から美奈子にスイッチするあの瞬間とか、ぞわっときました。感情のうねりと精神のありどころの変化を見事に演じ、景虎どっちが演じるか問題でも潔い姿勢を貫いて女優魂を見せつけてくれた。
 小野川さんは本編も最後まで読んでくださったそうで……。文字通り、ふたりの行く末を美奈子が見届けた現実に震えたわけですが、直江と景虎のゴールまで理解した上で演じてくださったのが、とても嬉しかった。人間・北里美奈子を演じてくれて本当にありがとう。
 個人的に、髪切って加瀬ジャン着た「美奈虎」舞台上には一瞬しか出なかったけど、大変心奪われました。「美奈子になった景虎ってこんなにかわいくなっちゃうんだ、直江やばくない?!」と動揺。原作書いていた時には気づかなかった、唯一の不覚でした。笑

■鐘ヶ江洸さん(高坂弾正)
 華麗なアクションが素晴らしい鐘ヶ江高坂。ただ運動神経がいいだけでなくアクションに役の個性を乗せられるのがすごい。直江いびりがない分、景虎とがっつり絡んで存在感増し増し。あの独特の台詞回しがトリックスターらしく鮮烈でした。非常に明晰な役作りで作品に残した爪痕が凄かった。ありがとう。
(ちなみに高坂の念を真正面からくらう席で観た回があったんですけど、本当に念が出てました。体が無意識に後ろにのけぞった……。鐘ヶ江さん、気功使えてますね。換生者か)
「(もしも)10年後にミラージュ再演する時は、加瀬は俺がやります」
と断言していた洸さん。口調は冗談っぽかったけど目が本気だった。
自信たっぷりでした。なんて頼もしい! その時はよろしく頼みますよ。笑

■田中尚輝さん(高屋敷鉄二)
 魔王の種を植えられて、実は一番振れ幅の大きい芝居を求められる今回の鉄二。人なつっこい鉄二を素直に演じるかたわら、あの癖の強い増田信長をすごく研究されて、稽古を見にいくごとにぐんぐん獲得していった。本番では信長になった時の台詞が増田さんと聞き違えるほどに。若いのに大したものだなあ、と感心して観ていました。
 最後は美奈子に射殺される鉄二ですが、巻き込まれた現代人が現代人の手で殺されるという不条理が、痛かった。あんなに加瀬が大好きだったのに。
 ご本人もとても人なつっこく、これからが楽しみな俳優さんでした。

■横山真史さん(滝川一益)
 満を持して登場した織田方の怨将。がっしりとした体格と骨太なお芝居は、これぞ武将!といった重量感があり、脂ののった男っぷりが素晴らしかった。一益の色付けとして舞台ではバトルマニアっぽさがあったのがわくわくさせられました。あと、よく響くバリトンのお声がいい! 色部さんとの一騎打ちは見応えありました。
 まだ三十代前半というお年で、あれだけ堂々とした立ち居振る舞いができ、大河ドラマを思わせる太いお芝居をするかたは貴重。もっともっと観てみたくなりました。

■田口涼さん(佐久間盛政)
 もうひとりの織田の怨将。肉体派の一益と対、とのことで「インテリヤクザ風に」とリクエストしていたのですが、想像以上にスタイリッシュなメガネ怨将が現れ、テンションがあがった私です。「玄蕃様〜」と目をハートにしながら観てました。出番は少ないけれど大事な台詞がピンポイントでいくつかあって(「毘沙門刀を振るう女がいると!」とか演劇的に大事な台詞ですよね)それをとても印象的に放ってくれた。
 佇まいがスマートで、ひたすら……ステキでした。

■新原美波さん(虎姫)
 織田…というより「戦国の女代表」。男の論理とはちがうところで生きる女の強さを毅然と演じてくださいました。現代の女代表・美奈子とは対照的であるようにみえて、どこか透徹したものをもつふたりに時代を超えた共通点を感じました。母であった虎姫と母になろうとした美奈子。黒い喪服めいたドレス姿が美しかった。
 松子の死を告げるシーンの稽古で、報せを聞いた殿が一度、手にした刀を虎姫の喉元に突きつけたことがあったんですが、あとで「死ぬほどこわかった〜」と震えていた新原さんが可愛かったです。(そうさせる殿もすごいです)

■増田裕生さん(朽木慎治/織田信長)
 信長という人物は、覇者とか魔王とか、どこか「皆がもつイメージ」で描かれてしまうことが多いけれど、そのどれにもあてはまらなかった。地に足をつけて生きる人間だけに備わる血肉と血潮があった。最後はもう信長自身どうすることもできないほど朽木とひとつになっていて、終戦後を生きたちっぽけな名も無き生活人・朽木が染みこんだ信長は、本能寺で死ねた信長ではもうなくなってしまったことにある種の痛みすら感じた。
 景虎との「言葉での戦い」はどの回も圧巻だったけど、特に千秋楽のまっすんさんは、凄みの極みでした。忘れない。ありがとうございました。
 ミラージュも全部読んでくださったとのことで正真正銘のミラジャンでした。

■林修司さん(ジェイムス・D・ハンドウ/森蘭丸)
 シリーズ全五作「織田」を背負った蘭丸は、もはや信長の影そのもの。そこになければ違和感すら感じる、林さんの蘭丸はもうそういう域にありました。武将が増えて、織田に厚みがついた今回は、信長の軽口にも唯一微笑むことができる特別な距離感をどこか誇らしく思っているようにさえ見えた。林さんが腹の底から搾り出す情念の表現は、まるで火山の噴気孔のようだった。その発し方がいかにも蘭丸らしかった。
 舞台の外では笑わせキャラな林さんだけど、歴史を語らせると本当に博識で深かった。またいつか語り合いましょうね。ありがとうございました。

■石倉良信さん(柳楽順慶)
 今回の舞台で唯一の純粋な現代人。一見、頑固で偏屈な芸術家だが人の心の機微に通じた男を、温かな情感をもって表現してくださいました。美奈子の孤独を理解していたわる柔和な表情をみて、美奈子の救いになってくれるひとがいて本当によかったと。加瀬と柳楽のやりとりはないけれど、ああ、こういうひとだから景虎は信頼して託したんだな、というのが素直に伝わった。その向こうにふたりの絆まで感じ取れたのはさすが。
 苔大好きな石倉さんの楽しくて優しい空気、本当にありがたかった。ずっとミラージュに出たいと仰ってくれて、最後の最後に参加してくれて本当にありがとう!

■笠原紳司さん(色部勝長/佐々木由紀雄)
 今回の舞台、色部さんの真骨頂でした。素晴らしかった。
 人間くさくて大人で、皆がこじらせるところをこじらせず、ひとの悲しみも痛みも真正面から受け止められる。包容力なんていう柔くてありきたりの言葉では言い表せない。あの大きな体が全身全霊で生み出す表現のパワーに圧倒されつつ、柔らかく温かな思いやりの表現に何度か泣かされました。美奈子に換生した景虎の肩をまるで壊れ物を扱うように抱く姿が、色部勝長という男の深さを語っていた。
 最終決戦で皆を引っ張るかのように声を張り上げ、いつもは温和で一歩下がったところに立つ色部さんが存在感を控えることなく、その姿にかつて「血染めの感状」をもらった軍奉行の姿が甦ったようにも感じた。やはり見届けるのは彼でなければならなかった。
 紳司さんとは今回いつも以上にいろんなことをお話した気がする。受け止めても、もらった。演劇人・笠原紳司がこめた想いが痛いほど伝わった。心から感謝してます。

■殺陣衆の皆さん
 村井亮さん、菅原健志さん、細川晃弘さん、白崎誠也さん、坂本和基さん、福田啓祐さん、金子佳代さん、木寺奈緒さん

 ミラージュの裏の主役は《調伏》される怨霊たち。それが見られるのも最後。
 技術に裏打ちされたアクションで迫力ある戦闘シーンを担ってくれました。今回は比較的アクションシーンが少なめとはいえ、狭い空間での危険を伴う激しいアクションは難易度も高く、大きな怪我なく無事にやりきれることを毎回祈ってました。
 今回は刀や銃もあるので盛りだくさん、生で堪能できるのは贅沢以外のなんでもなく。
 ただ、ただ、かっこよかった! 痛快だったし、爽快でした。
 八海役の細川さんは二回目。きびきびした動作は、茶道とか能とか、そういうものにも通じるものが。毒を発見して肩を落とすとか、立場をわきまえてあえて直視せず、とか細かいところに八海イズムが滲んでいて、有能感がすごい。ほんと上杉は八海のおかげでなんとかやってこれてることを、夜叉衆はもっと自覚しなさいと思いました。笑
 そして八神役の坂本さんがまた絶妙で。全体が見えて一本筋が通る八海とは違い、長秀の密命を突っぱねられない感じが伝わるあの佇まい、個人的にとてもツボでした。
 女子殺陣衆のふたり。アクション歴はベテランの域だけど、殿のうちわもつくっちゃう金子さん、最高。カンパニー最年少の木寺さんは、自分がデビューした年齢と近く、見ていて懐かしく、ひたすら可愛がってました。
 ミラステ歴一番長い菅原さんは瑠璃燕から。振り返ると歴代殺陣衆の皆さんの顔が浮かびます。本当にありがとう。

3へつづく

  • 2019.2.4 更新

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