そう。
僕から兄さんへのプレゼントはこれだ。
兄さんの大好物「カリーブルスト」だ。
え? 知らない?
カリーブルストというのは、ラードで炒めた皮なしソーセージに、カレー粉入りの特製ソースをかけたもので、ちょっとしたファストフードだ。僕たちが東ベルリンにいた子供の頃、しょっちゅう食べてたインビス(軽食)だ。
高架下のおばちゃんがやってるお店のが最高に美味しくて、兄さんは毎日通ってもいいっていうくらい大好きだった。一度でいいからお腹いっぱい心ゆくまで食べてみたいって言ってたのを、僕はちゃんと覚えていたんだ。
ベルリンのお店にまで行ってテイクアウトしようかとも考えたけど、僕がベルリンに帰る時は兄さんも一緒だって心に決めてたから、頑張って再現することにした。
秘伝の特製ソースは門外不出らしいんだけど、そこは泣く子も黙るアースガルズの超騎士。騎士の館の主シュミットさんがあらゆる筋からこっそりレシピを手に入れてきてくれた。本物は専用の容器に入って出されるんだけど、それは僕が手作りした。
そんなこんなで、夢のカリーブルストの再現に成功したのだ! ……したはずだ。
「さあ、今日はお腹いっぱい食べれるようにいっぱい作ってきたんだ。たんと食べて! 兄さん!」
「ありがとう! では遠慮なくいただくよ!」
兄さんは勢いよくガブッといった。
一瞬、あれ? ていう顔をした……ような気がしたけど、
すぐに凄い笑顔に戻って、
「おいしい! おいしいよ、ザック!」
「ほんと?」
「うん、まさにこれだ。高架下のおばさんのカリーブルストだ! いや、本物よりももっと美味しいよ!」
「そ、そうかい? いっぱいあるよ。ワインも買ってきたんだ。一緒に食べて食べて!」
兄さんは嬉しそうに心ゆくまで僕のカリーブルストを堪能し、完食した。とっても満足そうな顔してくれたから、僕も嬉しくてたまらない。大満足だ。大成功だ。
「ありがとう。ザック。最高のプレゼントだ。こっちに来てから、ずっとこの味が恋しかった。やっと夢が叶ったよ。乾杯だ、ザック。おまえのカリーブルストと最高の誕生日に乾杯」
「乾杯、兄さん」
かちぃん、とグラスがきれいな音を立てた。
僕たちは兄弟水入らずのパーティを心ゆくまで楽しんだ。
本当に夢のような誕生日だったんだ。
さて翌日。
二日酔い気味の頭を抱えて、達成感に浸っていた僕のもとに、アランがふらりとやってきて、こんなことを言った。
「おい、ザック。おまえ、俺の鯨オイル見なかったか?」
「え? 鯨?」
「ああ。アダトの爪を磨く専用脂なんだが、冷蔵庫に入れといたはずが、ねえんだよな」
「えー…と、みてないと思いますけど」
「っかしーな。まだいっぱい残ってたはずなのに。代わりになんか変な脂はあったんだが」
ま・さ・か……。
僕は慌ててキッチンに引き返した。冷蔵庫を開けてギャーと悲鳴をあげた。
「やってしまったあああ!」
「はあ?」
「ラード!! ここにあるのが僕の持ってきたシュミットさんのラードだよ! 間違ってソーセージ炒めるのにアランの鯨脂使っちゃったんだ!」
兄さんが変な顔をしたのはそのせいだったんだ。特製ソースに気を取られて、ソーセージの味見を忘れてた!
「たいへんだあああ!」
案の定、兄さんはおなかを壊して公務を休んでた。
一足先に、ケヴァンが見舞いに来てたみたいだ。僕が血相を変えて王宮に向かっている最中のことだ。ケヴァンはやっぱり呆れてたという。
「……変だと思ったら食べなきゃいいのに」
「そんなわけにいかないよ。せっかく弟が作ってくれたんだ」
ソファに横たわった兄さんは、ちょっと頬がこけたカンジで答えたとか。
「まったく兄馬鹿にもほどがある」
「こんな幸せで腹をこわすなら本望だよ。私は」
僕のクローゼットには、今、
兄さんから貰ったタイピンとケヴァンから貰ったネクタイが収まっている。
それらを一人前に凛々しく身につける頃には、きっと美味しいカリーブルストを作れるようになってるだろう。
待っていて、兄さん。待っていて、ケヴァン。
僕のチャレンジは始まってるんだ。
来年はきっともっと凄い誕生日がやってくる。
(おわり)
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長々とおつきあいありがとうございました。
まだ番外編もありますので、シュラバ明けた頃にでもUPしようと思います。奏編です。
よければそちらもおつきあいください。
